コラム

社用車の日常点検とは?義務・罰則・チェック項目を安全運転管理者向けに解説

働き方・コンプライアンス 安全運転・事故削減 法令対応 車両管理高度化
車の日常点検をおこなっている

社用車の日常点検を確実に実施させることは、安全運転管理者の重要な責務です。「運転者任せで、点検が形骸化しているかもしれない」「具体的な項目や罰則が不明確」といった課題はありませんか。本記事では、日常点検の基本からチェック項目、怠った際のリスク、デジタル化による効率化までを網羅的に解説します。安全管理体制の強化にお役立てください。

日常点検とは?

車の日常点検をおこなっている

日常点検とは、道路運送車両法第47条の2で定められた「使用者の義務」であり、運行前に自動車の安全性を確認する重要な点検です。定期的に専門家が実施する「車検」や「法定点検」とは異なり、日々の安全確保を目的として運転者自身が行います。

社用車においても使用者責任は、安全な運行と事故防止に直結する重要なポイントです。本章では、日常点検の基本的な定義から、その責任の所在、EV(電気自動車)での必要性までを解説します。

車検・法定点検との違い

車の点検には、日常点検の他に「車検」と「法定点検」があり、それぞれ目的と頻度が異なります。

点検の種類

車検
2年ごと、もしくは新車の場合は納車3年目に、その車が国の保安基準に適合しているかを確認する検査
法定点検
半年~1年に一度、故障を未然に防ぐ目的で専門家が行う点検・整備
日常点検
運行前・定期的(頻度)に、使用者(運転者)が行う一次的な安全確認

車検と法定点検は、あくまで「点検時点」での安全性を確認するもので、次の点検までに生じるタイヤの摩耗や部品の劣化はカバーできません。一方、日常点検は使用者(運転者)が運行前に日々行う安全確認です。3つの点検は相互に補完しあっており、どれも安全な運行には不可欠です。

また、車種ごとにより法定点検、車検のタイミングに違いがあるため注意が必要です。

車種別 法定点検と車検

自家用普通車
  • 法定点検:12カ月点検

  • 車検:新車登録から3年後 以後2年ごと

自家用軽自動車
  • 法定点検:24カ月点検

  • 車検:新車登録から3年後 以後2年ごと

自家用中小型トラック
  • 法定点検:6カ月点検

  • 車検:新車登録から2年後 以後1年ごと

レンタカー(乗用車)
  • 法定点検:12カ月点検

  • 車検:新車登録から2年後 以後1年ごと

事業用車両(バス、トラック、タクシー)
  • 法定点検:3カ月点検

  • 新車登録から1年後 以後1年ごと

自家用大型トラック
  • 法定点検:12カ月点検

  • 車検:新車登録から1年後 以後1年ごと

レンタカー(商用車)
  • 法定点検:12カ月点検

  • 車検:新車登録から1年後 以後1年ごと

誰の責任で行うのか?

道路運送車両法第47条の2により、日常点検の責任は、車検証に記載されている「使用者」にあると定められています。

社用車の場合、使用者は法人となるため、点検実施の責任は企業自体です。そのため、実際に点検を行うのは運転者ですが、安全運転管理者は、運転者が適切に点検を実施できる体制を整え、監督する必要があるでしょう。

特に、事業用自動車(緑ナンバー)は、毎日の運行前に点検を実施し、その結果を記録することが法律で厳しく義務付けられています。
参考:道路運送車両法 第47条の2(日常点検整備)

EVも日常点検が必要なのか?

電気自動車(EV)も日常点検は必要不可欠です。タイヤの空気圧や摩耗、ライトの点灯、ブレーキ液の量など、基本的な点検項目の多くはガソリン車と共通しています。

ただし、EVには高電圧のバッテリーやモーターが搭載されており、取り扱いには特別な注意が必要です。特に、オレンジ色のケーブルや注意書きシールが貼られた部分は高電圧を示します。感電による火傷の危険があるため絶対に触れないよう、運転者への安全教育を徹底することが重要です。

なぜ日常点検が必要なのか

タイヤの点検をする運転者

日常点検は法律で定められた義務ですが、「車検を受けているから大丈夫」「日々の業務が忙しく、つい点検がおろそかになっている」といった実態はないでしょうか。その一手間の軽視が、重大な事故や予期せぬコスト増といった経営リスクに直結します。

車検だけではカバーしきれない日々の車両コンディションを把握し、安全を確保するためには日常点検が不可欠です。本章では、事故防止やコスト削減といった観点から、日常点検の重要性と必要性を解説します。

車検だけでは不十分な理由

車検に合格した場合でも、次の車検まで安全が保証されるわけではありません。車検はあくまで、検査時点での国の保安基準への適合性を確認するものです。
例えば、タイヤの空気圧や摩耗、ブレーキ液の量、ライト類の球切れといった不具合は、日々の走行で突然発生する可能性があります。これらは消耗品であり、時間の経過とともに常に劣化・摩耗が進んでいるためです。このような日々のコンディションの変化を早期に発見し、安全な状態を維持するために、運行前の日常点検が重要です。

事故やトラブルを未然に防ぐ

運行中の車の故障やトラブルは、事故のリスクを高めるだけでなく、業務の遅延など企業の信頼を損なう事態にも発展しかねません。なかでも、国土交通省の調査によると、一般道路における故障の内訳では「タイヤ」が約35.1%、「バッテリー」が約28.5%を占めています。これらのトラブルの多くは、運行前のわずかな時間でできる日常点検で防ぐことが可能です。
参考:令和6年度路上故障の実態調査結果|国土交通省

日常点検は、事故やトラブルを未然に防ぎ企業の信用度を維持するための最も効果的な手段のひとつといえるでしょう。また、その他に企業が注意しなければならない「安全運転義務」については以下をご確認ください。
「安全運転義務違反」とは?企業が知るべきリスクと対策の基本

コスト・業務リスクの軽減

交通事故現場

日常点検の重要性を理解していても「時間がない」「面倒だ」といった理由で、つい点検がおろそかになってはいないでしょうか。しかし、この一手間を省く行為は、単なる義務違反では済まされません。

整備不良による罰則といった直接的な法令違反のリスクはもちろん、万が一事故が発生した場合、企業としての社会的責任が厳しく問われることになります。本章では、点検を怠った場合の具体的な法的リスクと、企業が負うことになる経営上のリスクについて解説します。

法令違反のリスク

日常点検の実施義務は法律で定められていますが、点検を怠ったこと自体に直接的な罰則規定はありません。しかし、「整備不良」の状態で公道を走行した場合、道路交通法違反として罰則の対象となります。

例えば、ライトの球切れは「無灯火」として違反点数1点、反則金7,000円(普通車)が科せられます。

また、ブレーキの効きが悪い整備不良は「整備不良制動装置等違反」とみなされ、反則金9,000円(普通車)の対象です。整備不良により死傷事故を起こした場合はさらに重い刑事罰の対象となる可能性もあります。

企業リスクと社会的責任

万が一、整備不良が原因で事故が発生した場合、その責任は運転者だけにとどまりません。「使用者責任」として、企業の安全管理体制が厳しく問われることになるでしょう。

事故は、被害者への損害賠償はもちろん、企業の社会的信用やブランドイメージの下落に直結します。取引停止や従業員の士気低下など、事業活動全体に深刻な影響を及ぼすリスクも軽視できません。

安全運転管理者には、運転者の意識だけに頼るのではなく、点検を確実に実施・記録する「仕組み」を構築し、その証跡を管理する社会的責任があります。

日常点検の基本ポイント

運転前に日常点検を行う運転者

本章では、国土交通省が推奨する15項目を3つのステップに分け、各項目について「なぜ必要なのか」「どう確認するのか」「異常時の対応」までをセットで解説します。運転者教育の参考資料としてぜひご活用ください。

エンジンルームの点検

まずは車の心臓部であるエンジンルームの点検です。走行中のトラブルを未然に防ぐため、ボンネットを開けて5つのポイントを確認しましょう。

ウィンド・ウォッシャー液

点検理由
突然の汚れによる視界不良の予防
点検箇所
タンクの液量を確認
異常時の対応
不足時には専用のウォッシャー液を補充

ブレーキ液

点検理由
ブレーキの効きに直結する最重要項目
点検箇所
タンク側面にあるMAX(上限)とMIN(下限)の間に液面があるか確認
異常時の対応
MINに近い、または著しく減っている場合は漏れの疑い
安易に補充せず、直ちに運行を中止し整備工場に連絡すること

バッテリー液

※メンテナンスフリーバッテリーは点検不要

点検理由
バッテリー上がりによるエンジン始動不能を予防
点検箇所
側面のUPPERとLOWERの間に液面があるか確認
異常時の対応
不足時には補充液を追加

冷却水

※エンジンが熱い時は絶対にキャップを開けない

点検理由
エンジンのオーバーヒートを予防
点検箇所
リザーバータンク※のFULLとLOWの間に液面があるか確認
※クラッチやブレーキ、ラジエーターなどについている予備タンク
異常時の対応
不足時には補充
急激な減りは水漏れの可能性があるため整備工場に相談すること

エンジンオイル

点検理由
エンジンの潤滑を保ち、焼き付きなどを予防
点検箇所
オイルレベルゲージ※を抜き、一度拭いてから再度差し込み、HとLの間にオイルが付着するか確認
※エンジンオイルの分量や状態を把握するためのゲージ。オイル量がおおよそ1Lになるように上限と下限のマークが刻まれている。
異常時の対応
L以下であれば補充が必要
オイルの汚れがひどい場合や減りが早い場合は専門家へ相談を推奨

特にブレーキ液やエンジンオイルは、重大な事故や故障に直結するため、運転者にはその重要性を理解する必要があります。

車のまわりの点検

車のまわりの点検は、安全な走行を支える足回りと、周囲の自動車とコミュニケーションをとるための灯火類の確認が中心となります。

タイヤ(空気圧・亀裂・摩耗)

点検理由
タイヤの不具合は、燃費の悪化だけでなく、バーストなど重大事故に直結
点検箇所
空気圧:タイヤの接地面が過度につぶれていないか目視で確認
亀裂・摩耗:釘などが刺さっていないか、側面にひび割れがないか、溝の中のスリップサイン(1.6mmの目印)が出ていないかを確認
異常時の対応
空気圧不足はガソリンスタンド等で補充
摩耗や損傷が著しい場合は運行を中止し、速やかにタイヤ交換が必要

ライト類(ヘッドライト、ウィンカー、ブレーキランプ)

点検理由
夜間や悪天候時の視界確保と、周囲の車への合図を送るための重要装置
点検箇所
ヘッドライト、ウィンカー等が正常に点灯・点滅するか、レンズに汚れや損傷がないか確認
ブレーキランプは壁に反射させると一人でもチェック可能
異常時の対応
球切れは交換、レンズの汚れは清掃もしくは研磨

ワイパーの作動

点検理由
雨天時の視界を確保
点検箇所
ワイパーを作動させ、きれいに拭き取れるか確認
異常時の対応
拭きムラがある場合はゴムの劣化が原因
ウォッシャー液を噴射してから作動させ、それでも改善しない場合はワイパーゴムの交換が必要

特にタイヤの異常は重大事故に直結する危険性が高いため、運転者には念入りなチェックを指導することが重要です。

運転席からの点検

最後に運転席に座り、運転操作に直接関わるブレーキやエンジンなどの最終チェックを行います。

ブレーキペダル(踏みしろ・効き具合)

点検理由
ブレーキ液の漏れやシステムの空気混入といった、目視ではわからない内部の異常を検知するため
点検箇所
エンジンをかけた状態でブレーキペダルを強く踏み込み、床とのすき間(踏みしろ)や踏みごたえが普段と変わりないか確認
異常時の対応
踏みごたえがフカフカする、床近くまで踏み込める場合は重大な不具合の可能性があるため、直ちに運行を中止し、整備工場に相談

パーキングブレーキ(引きしろ・踏みしろ)

点検理由
駐車時の安全を確保する
点検箇所
レバーまたはペダルを操作し、引きしろ(踏みしろ)が多すぎず少なすぎず、適正な範囲かを確認
異常時の対応
効きが甘い場合は整備工場に相談し、調整が必要

計器類(エンジンのかかり具合・警告灯)

点検理由
エンジン等の異常を早期に発見するため
点検箇所
エンジンを始動し、スムーズにかかるか、異音がないかを確認
メーター内の警告灯が一旦点灯し、その後すべて消灯するかを確認
異常時の対応
警告灯が消えない場合は、そのシステムに異常がある
取扱説明書を確認し、整備工場に相談すること

運転席からの点検は、運転者自身の感覚が頼りになる部分です。「いつもと違う」というわずかな違和感が、重大な故障のサインであることも少なくありません。

ここまで紹介した3ステップの点検を確実に実施することが、安全な運行の第一歩です。

点検の頻度とタイミング

日常点検をいつ、どのくらいの頻度で実施すべきかについては、車両の種類によって法律上の規定が異なります。

バスやトラックなどの事業用自動車(緑ナンバー)は、法律により「1日1回、その運行の開始前」に日常点検を実施することが厳格に義務付けられています。一方、自家用扱いとなる白ナンバーの社用車には、法律で具体的な点検頻度の規定はありません。しかし、安全確保の観点から、毎日運行前に実施することが理想です。

また、定期的な点検に加えて、長距離走行や高速道路を利用する前、あるいは大雨や降雪など悪天候での走行が予想される時には、より念入りな点検を行うよう運転者に指導しましょう。

特に夏・冬といった車にとって負担が大きい季節には、特に注意するポイントが発生します。夏には高熱によるエアコン、バッテリー、冷却水、タイヤ周りの異常、冬には冷えによるエンジンオイル、ウォッシャー液、ラジエーター、タイヤ周りの異常によるトラブルが多発します。

車両管理者が行うべきポイントをまとめた年間スケジュールは、以下記事にて公開中です。
【車両管理の基本】新任担当者が押さえるべき年間スケジュールと効率化のポイント

記録を残すことの重要性

日常点検は、実施するだけでなく「記録」も重要です。この記録(点検簿)は、企業が使用者としての安全管理責任を果たしていることを示す重要な「証跡」となります。

万が一、社用車が事故を起こしてしまった場合、この点検記録があることで、企業の管理体制に不備がなかったことを客観的に証明する助けとなり、事故原因の正確な特定が可能です。また、不当な責任追及から会社を守ることにもつながります。

さらに、安全運転管理者にとって、日常点検の記録は運転者の点検実施状況や安全意識を把握するための貴重なデータです。記録を確認し、不備があれば再教育を行うなど、具体的な改善指導の材料として活用できます。日常点検の記録は、運転者と企業双方を守るための重要なリスク管理ツールといえるでしょう。

点検を効率化する方法

車両に取り巻く点検項目を表している

日常点検の重要性を理解していても、日々の運用には「運転者の負担が大きい」「管理者が全車両の状況を把握しきれない」といった課題が生じやすくなるでしょう。その結果、点検がマンネリ化し、本来の目的を見失ってしまう可能性もあります。

安全確保と業務効率を両立させるためには、点検プロセスの見直しが不可欠です。本章では、点検の質を高めるための工夫から、テレマティクスなどを活用したデジタル化のメリットまで、点検業務を効率化する具体的な方法を紹介します。

点検の形骸化を防ぐ工夫

日常点検をルール化しても、運用が形骸化するケースは少なくありません。特に紙のチェックリストでは、毎日の作業がマンネリ化し、中身を確認せずチェックするだけの「やらされ作業」になりがちです。

これを防ぐには、まず運転者への継続的な教育が不可欠です。「なぜ点検が必要か」「怠るとどんなリスクがあるか」を伝え、安全意識を高めましょう。また、管理者が点検記録を確認し、不備があればフィードバックする体制も効果的です。時にはランダムで実車確認を行うなど、緊張感を保つ工夫が点検の質を高めます。

紙→デジタルの移行も

点検の確実な実施と管理を効率化する上で、最も効果的なのが紙の点検簿からデジタルツールへの移行です。

スマートフォンアプリを活用すれば、運転者は簡単に入力・報告でき、管理者は全車両の点検状況をリアルタイムで把握できます。これにより、紙の回収や保管といった手間も一切不要です。

NCSが提供する「ドライブドクター 運行支援アプリ」には、日常点検の報告機能が標準搭載されています。実際に導入した企業からは、点検の実施率向上と管理工数の大幅な削減を両立できたという声も上がっています。
メリットについて詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
アナログな車両管理をスマホアプリにすることのメリットとは

機能の詳細について知りたい方はこちらをご覧ください。
NCSドライブドクター支援アプリ

導入事例のご紹介【岡部株式会社さま】

岡部株式会社さまでは、手書きで運転日報を作成・管理していたため業務負担や記入漏れが課題でした。アルコールチェック記録の義務化をきっかけに、NCSの運行支援アプリを導入。選定の決め手はタイムリーな提案と手厚いサポート、車両単位の料金体系です。導入後は、運転日報の作成や点検記録もスマホで簡単に管理でき、業務の効率化や記載の正確性も向上しました。

NCS 「導入/活用事例 岡部株式会社さま」

まとめ

本記事では、車の日常点検の重要性から具体的な方法、効率化まで解説しました。日常点検は、事故を防ぐだけでなく、整備不良による罰則や企業の社会的責任といったリスクを回避する重要な業務です。運転者任せにせず、管理者主導で確実に実施する仕組み作りが不可欠です。デジタルツールの活用も視野に入れ、安全管理体制を見直しましょう。