2024.10.25

EVの航続距離はどれくらい? 電欠しないポイントも紹介

カテゴリー:コラム
テーマ:EV/環境・脱炭素/コスト最適化

近年、環境性能の高さや静粛性などから注目を集めているのがEV(電気自動車)です。その一方で、「航続距離が短いイメージがある」「電欠したらどうすればいいの?」といった不安があるかもしれません。JAFロードサービスによると、電欠が原因のEVトラブルは全体の10%を占めています。

では、実際のところEVの航続距離はどれくらいなのでしょうか?また、航続距離に不安を感じることなくEVに乗るにはどうすれば良いのでしょうか?

この記事では、EVの航続距離について、走行距離を左右する要素や航続距離を伸ばすための方法、そして社用車としてEVを導入するメリットなどを解説していきます。

そもそもEVって? という方はこちらの記事をご覧ください。
EV(電気自動車)とは?特徴や種類についてゼロから解説!

1. EVの航続距離はどれくらい?

EVを社用車として導入する際、航続距離は重要な検討要素になるでしょう。航続距離とは、車両が一回の燃料補給で走行できる距離を指し、EVにおいては「一充電走行距離」と表されるのが一般的です。

EVの航続距離は約180~600km

EVの航続距離は、車種によって大きく異なります。

軽EVや軽商用EVの航続距離は、200km前後のものが多い傾向にあります。例えば、日産サクラ(20kWh)や三菱eKクロスEV(20kWh)の航続距離は180km、10月10日に発売されたホンダN-VAN e:(29.6kWh)は245kmです。

普通乗用EVの航続距離は、300~500kmが主流ですが、中には600km以上走行できる車種も登場しています。例えば、日産リーフの航続距離は281~450kmですが、91kWhの大容量バッテリーを搭載した日産アリア(B9)の場合、航続距離は640kmに達します。

乗用・軽商用EVの車種ラインアップはこちら
【乗用・軽商用編】法人向けEVの車種ラインアップを紹介!

さらに、EVトラックやEVバスの航続距離は100~360kmです。いすゞのEVバスであるエルガEVは、245.3kWhのバッテリーを搭載し、航続距離は360kmになります。トラックやバスは、車両総重量にくわえて積載物や乗客を乗せて走行するため、バッテリー容量に対する航続距離は短くなる傾向です。

EVトラック・バスの車種ラインアップはこちら
【トラック・バス編】法人向けEVの車種ラインアップを紹介!

ガソリン車の航続距離との差は約2~3倍

ガソリン車とEVの航続距離を比較すると、約2~3倍の差があることが分かります。通常、ガソリン車は満タンで500km以上走行できる仕様が一般的で、車種によってはさらに長距離の航続が可能なモデルも存在します。

以下では、同等サイズのEVとガソリン車を比較してみました。

また、EVの充電料金とガソリン代はこちらの記事で比較しています。
EV(電気自動車)の充電料金は? ガソリン車と比較して解説

2. EVの航続距離を左右する要素

カタログに記載されているEVの航続距離は、あくまで理想的な条件下での値です。実際の走行では、道路状況や天候、運転方法などが影響し、一般的にはカタログ値の7割程度といわれています。

ここでは、EVユーザーなら知っておきたい「EVの航続距離を左右する要素」として、特に影響の大きい3つの要素を紹介します。

冷暖房の使用

冷暖房の使用はEVの航続距離に大きく影響します。ガソリン車では、エンジンの排熱を暖房に利用しますが、EVでは冷暖房すべてに電気を利用するためです。

特に、窓ガラスの曇りを取る際に使用する「除湿暖房」機能は、冷房と暖房を同時に作動させるのに近い電力を消費します。「除湿暖房」は安全運転に欠かせない機能ですが、航続距離を考えると、継続使用には注意が必要です。

そのため、車内の温度設定を控えめにしたり、不必要な冷暖房の使用を控えたりする工夫が航続距離を伸ばすことにつながります。

上り坂・下り坂

EVはガソリン車と同様、上り坂では多くのエネルギーを消費するため電費は悪くなります。しかし、下り坂ではEVならではのメリットである「回生ブレーキ」が活躍します。

回生ブレーキは、減速時のエネルギーを電力に変換し、バッテリーに充電するシステムです。具体的には、下り坂でブレーキを活用すると、坂道を下る際に生じる位置エネルギーを運動エネルギー、そして電気エネルギーに変換しバッテリーの充電につなげる仕組みです。

回生ブレーキのメリットは電費向上だけではありません。ブレーキパッドの摩耗を減らし、メンテナンスコスト削減にも貢献します。

バッテリーの劣化

EVの航続距離はバッテリーの劣化にも影響を受けます。劣化すると充電容量が減り、新車時よりも走行できる距離が短くなってしまいます。例えば、新車時の航続距離が500kmのEVの場合、バッテリーの劣化により本来の容量の80%しか充電できなくなると、航続距離は400kmにまで減少してしまいます。

しかし、多くのEVには8年程度のメーカー保証が付いているため、少なくともその期間はバッテリーの劣化を過度に心配する必要はありません。保証期間内であれば、一定の条件を満たした場合に無償でバッテリー交換などの対応を受けられます。

保証期間経過後、バッテリー交換が必要になった場合は、数十万円ほどの費用がかかります。そのため、EV購入の際は、長期的なコストも含めて検討することが重要です。

3. EVの航続距離への不安は解消されつつある

最近ではEVの車両性能が向上し、一回の充電で走行できる距離が伸びてきました。また、充電スポットの増加や、万が一電欠した際に対応してくれるロードサービスの充実など、航続距離に関する不安を解消するサービスも拡充されています。

EVの車両性能が上がってきている

EVの航続距離は、バッテリー性能の向上や搭載バッテリーの容量拡大により年々伸びています。2020年頃までは、400kmが航続距離の目安でしたが、近年ではバッテリーの小型化や電費改善が進み、600kmを超える車種も登場し、長距離走行も現実的になってきました。

例えば、国産車では日産「アリア」が最大640km、輸入車ではメルセデス・ベンツ「EQS」が最大770kmの航続距離を実現しています(いずれもWLTCモード)。

さらに、レクサスが2026年の市場導入を目標に、航続距離1,000kmを目指したEV開発を発表するなど、今後も航続距離や車両性能の向上が期待できます。

充電スタンドの数が増えている 

EVの普及に伴い、全国の充電インフラが急速に整備されています。2023年時点でのEV充電スタンドとガソリンスタンドの件数を比較すると、EVの充電スタンド数が上回ってきていることがわかります。

また、高速道路のサービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)への急速充電器の設置も進み、ますます充実してきました。政府は2030年までに15万基の充電設備を整備する目標を掲げており、今後も充電インフラの拡充が期待され、不安が解消されつつあります。これにより、EVの長距離移動がより便利で安心なものになっていくでしょう。

EVの充電スタンドについて、こちらの記事でも紹介しています。
これを読めばわかる! EV(電気自動車)の充電のあれこれ

給電サービスがあるから電欠しても安心

EVが電欠した際の不安を解消するため、給電サービスが登場しています。特に、自動車保険会社を中心に、現場でEVに給電を行うロードサービスが拡大中です。従来はレッカー車で充電スポットまで運ぶ対応が一般的でしたが、新たなサービスはその場で充電を行い、すぐに移動できるようになっています。

2020年度にJAFが対応したEVロードサービス5,804件のうち、約10%が電欠によるもので、2022年には件数が700件を超えるなど増加傾向にあります。対して、サービス対象地域も全国に順次拡大しており、EV所有者にとって心強いサポートといえるでしょう。

4.航続距離を伸ばすためにできること

EVの普及が進む中、ユーザー側も航続距離を伸ばす工夫が大切です。自由な移動を実現するためには、EVに優しい運転を心がけ、エネルギーを効率よく使用することがポイントになります。また、専用のEVタイヤの使用により電費の向上が期待できるでしょう。

EVに優しい運転を心がける

電費を効率的に管理し、環境に優しいエコドライブの心がけで、EVの航続距離を伸ばしつつランニングコストを削減できます。急発進や急ブレーキを避ける、タイヤの空気圧を適正に保つ、不要な荷物を降ろすなどの基本的な工夫は、ガソリン車と同様に有効です。

EVならではのポイントとしては、まず冬場の暖房に関する工夫があります。EVは燃料を燃焼しないため余熱が少なく、エアコンの使用が電力消費を増やします。

そのため、シートヒーターやステアリングヒーターを活用するのがおすすめです。さらに、EV特有の回生ブレーキを効果的に活用することで、電力を回収することもできます。停止する手前から優しくブレーキをかけ、エネルギーを効率よく回収することが電費の向上につながるでしょう。

エコドライブについて、こちらの記事でも紹介しています。
EV(電気自動車)の充電料金は? ガソリン車と比較して解説

EVタイヤで電費を向上させる

EV専用に開発されたタイヤの装着は、電費の向上が期待できます。EVはエンジンがないため、モーターの抵抗が少なく、タイヤの低燃費性能が直接航続距離に影響します。EV用のタイヤは、摩耗を抑制するので電費向上に効果的です。

また、静粛性もEVタイヤの重要な要素です。エンジン音がないEVでは、タイヤノイズが際立って聞こえるケースがあります。そのため、タイヤノイズを軽減する機能も求められます。

さらに、EVは大きなバッテリーを持つため、タイヤにかかる負荷が大きくなることがあります。ブレーキ時の負荷が大きいため、偏摩耗を防ぐ耐久性能も重要です。これらの特性を備えたEV専用タイヤの使用は、快適な運転と効率的なエネルギー消費につながるでしょう。

※参照:BRIDGESTONE(ブリヂストン)「ECOPIA EV01」
※参照:DUNLOP(ダンロップ)「e. ENASAVE SPLT58」
※参照:YOKOHAMA(ヨコハマ)「ADVAN Sport V108」
※参照:TOYO TIRES(トーヨータイヤ)「NANO ENERGY M951EV」

5. 社用車としてのEVの利点 

社用車としてEVを導入することには、さまざまな利点があります。まず、環境負荷を減らすことで企業の社会的責任を果たし、持続可能な未来に貢献することができるでしょう。これにより企業イメージも向上します。

また、燃料費削減や税制優遇措置によってコストの削減が可能です。さらに、EVは非常時に電源として使用できるため、防災面でも価値があります。

環境貢献と企業イメージ向上

EVは、CO2や有害排出ガスを出さずに走行できるため、地球温暖化防止や大気汚染の削減に貢献します。これにより、企業はCSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを強化でき、企業イメージの向上につながるでしょう。

温室効果ガス削減が求められる現在、EV導入は環境配慮を可視化し、顧客や投資家からの信頼を高める絶好の機会です。日本の「温室効果ガスゼロ」を目指す目標とも合致し、企業価値の向上にも寄与できます。

コストを削減できる

EVの走行コストはガソリン車に比べて低く、燃料費を約1/3に抑えられるといわれています。そのため、EVの導入は、コスト削減に大きく寄与するといえるでしょう。自社で充電設備を持ち、深夜電力を利用すれば、さらなるコスト削減が可能です。

また、EVはエンジン車に比べて部品点数が少なく、モーターは消耗品の交換をほぼ必要としないため、メンテナンス費用も大幅に削減できます。さらに、振動や高温による劣化が少ないため、車体の維持費も割安です。EV導入時には国や自治体からの補助金を活用し、初期費用も抑えられるでしょう。くわえて、エネルギーマネジメントシステムの導入でランニングコストを長期的に抑制できます。

EVの充電料金について、詳しくはこちら
EV(電気自動車)の充電料金は? ガソリン車と比較して解説

非常用電源として活用できる

EVは、災害時の非常用電源として大きな可能性を持っています。EVのバッテリーは、外部給電器を通じてAC100Vで1500W以下の電化製品を使うことができ、車種によってはオプションでコンセントも備えられます。

最大の利点はその機動性で、必要な場所へ自走して電力を供給できます。これにより、被災地での柔軟な電力支援が実現します。さらに、EVは騒音や排気ガスを出さないため、避難所でも安心して使用でき、地域支援や社会貢献にもつながるでしょう。

非常時におけるEV活用について、詳しくはこちら
災害に強いEV活用でBCP対策強化&地域貢献を実現

6. まとめ

EVは導入の利点が大きく、さまざまな企業が社用車としてのEV検討すすめています。近年、EVの航続距離は向上し、今後も環境負荷の低減や企業の社会的責任(CSR)向上に貢献できるでしょう。

また、燃料費やメンテナンスコストの削減が可能で、非常用電源としても活用できます。自走して電力供給ができるため、災害時の地域支援にも役立ちます。これにより、持続可能な社会の実現が期待され、企業価値を高めることができます。

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