2025.5.27
「脱炭素」とは何か?企業が今すぐ向き合うべき理由
カテゴリー:コラム
テーマ:EV/環境・脱炭素/働き方改革・コンプライアンス
企業における脱炭素化は、持続可能な経営を目指す上で欠かせない要素です。GX(グリーントランスフォーメーション)をはじめとする国際的背景や法制度のなかで、企業には「温室効果ガス排出量を減らす努力」が求められています。本記事では、「脱炭素とは何か」という基本の確認から、日本でも宣言されている2050年までのカーボンニュートラル実現目標に向けた、企業の具体的な対応策を紹介します。
さらに企業が関わる温室効果ガスの排出量削減の対応の一つとして注目されている車両管理やEV導入についても解説します。
1. 脱炭素とは何か|概念と背景を整理

まずは、脱炭素の基本的な概念とその必要性をみていきます。脱炭素とカーボンニュートラルの違いを明確にし、2050年までのカーボンニュートラル実現目標とどう結びついているのかを説明します。
また、脱炭素が進む国際的背景から、企業がこの取り組みを推進する理由を紹介します。これにより、企業の経営戦略における脱炭素の位置づけを理解していただけるでしょう。
脱炭素とカーボンニュートラルの違い
「脱炭素」とは、気候変動問題の被害を食い止めるため、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を限りなくゼロに近づける全体的な取り組みを指します。これは、企業や政府が実施する具体的な削減行動の総称です。
一方、「カーボンニュートラル」は、排出する温室効果ガスと吸収する量を均衡にさせ、実質的に排出をゼロにする考え方です。つまり、カーボンニュートラルは、脱炭素に向けた具体的な取り組みの一部として位置づけられます。

また、カーボンニュートラルと似た意味合いの用語として「カーボンオフセット」があります。これは温室効果ガスの排出量を削減する取り組み、または温室効果ガスの吸収に関わる活動への投資を行うことなどを通し間接的に「オフセット(埋め合わせ)」することで、排出量と吸収量を均衡にする考え方です。
現在では「脱炭素」と「カーボンニュートラル」は同じように使用されることも多いものの、正確な意味を押さえておくことで理解が深まるでしょう。
温室効果ガス削減と2050年目標の関係
日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目標に掲げています。これは、あらゆる産業分野や企業活動における温室効果ガスの大幅な削減を求めるものです。具体的なステップとして、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年比で46%削減することを目標にしています。今後日本全体で持続可能な未来に向けた取り組みがさらに加速すると考えられます。
脱炭素が進む国際的な背景
国際的な脱炭素の取り組みは、2015年に国連気候変動枠組条約締約国会議にて合意されたパリ協定から加速度的に増加しました。先進国だけでなくすべての国に削減目標・行動をルール化したこの合意により、各国が温室効果ガス削減の目標を掲げています。上記の日本政府による目標もパリ協定に基づくものであり、脱炭素社会の実現に向けた取り組みは世界的なトレンドと言えるでしょう。
この流れを受け、企業においても脱炭素経営に取り組む動きが急速に進展しています。日本における温室効果ガスのうち78%は企業や公共事業によって排出されているため、各企業の取り組みは大きく脱炭素社会へ繋がると言えるでしょう。
2. 企業に脱炭素対応が求められる理由

企業に脱炭素対応が求められる理由は、法制度の整備、ビジネスパートナーからの期待、そしてESG(環境・社会・ガバナンス)評価の重要性にあります。
ここでは、法制度の動向をはじめ、取引先や金融機関からの脱炭素要請、さらに情報開示やESG評価が企業戦略に及ぼす影響について詳しく解説します。持続可能な成長を目指すうえで、企業はこの変化に迅速に対応する必要があるでしょう。
GX推進法・温対法など法制度の整備
GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)や温対法(地球温暖化対策推進法)、省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)は、企業に対し温室効果ガスの削減に向けた計画作成と温室効果ガス排出の可視化・報告を義務づけています。そのため、各企業は自身の排出量を正確に測定し、データとして報告する必要があります。
参考:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案【GX推進法】の概要
参考:地球温暖化対策推進法と地球温暖化対策計画
参考:エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律
これらの法制度は、持続可能な社会への転換を促し、企業活動の一部として脱炭素化を進めることを目指しています。早期にこれらの制度に対応を始めた企業は、将来的な規制の変更に対しても柔軟に対応でき、その備えが競争優位性を高めることにつながります。
取引先・金融機関からの脱炭素要請
大手企業が自社の脱炭素目標達成を進める動きは、中小企業にも影響を及ぼします。特に、取引先企業には、温室効果ガス排出量の測定・削減が求められ、サプライチェーン全体での環境対応が加速しているのが現状です。
また、金融機関や投資家は、企業を評価する際の基準に「環境リスクへの対応力」を加え、脱炭素への取り組みを重視しています。企業がこうした要請に応えることで、資金調達や投資を受けやすくなるとともに、競争力の強化につながる構図です。
情報開示・ESG評価とのつながり
企業の脱炭素への取り組みは、ESG経営(環境、社会、ガバナンスを重視する持続可能な経営方針)の一環として進められます。これらの活動は統合報告(非財務情報)というかたちで提供され、投資家や取引先が企業を評価する重要な判断材料のひとつです。
特に、パリ協定を背景に、多くの企業が気候変動に対応した経営戦略を公開し、TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿った情報開示を進めています。この流れは企業価値を向上させる鍵であり、統合報告の枠組みを取り入れることで、企業は自社価値の向上につなげることができます。結果として新しい取引先やビジネスチャンスの可能性を拡大できるでしょう。
3. まず取り組むべき3つの見直し

では、企業が脱炭素社会に貢献できる具体的な脱炭素施策はどのようなものがあるのでしょうか。様々な種類の施策がある中で、企業が最初に取り組むべきなのは“足元の見直し”です。ここでは、脱炭素経営の出発点として有効な3つの社内視点からのアプローチをご紹介します。
オフィス環境の見直し
環境省のデータによると、日本におけるオフィスビル、商業施設からの温室効果ガスの排出量は全体の15%であり、近年では環境に配慮したオフィスビルも誕生しています。企業としても業務における身近な脱炭素施策を行うことで、エネルギー消費量の低減に役立ちます。
- LED照明の導入により、消費電力を大幅に削減。
- 空調設備の省エネ化で夏季・冬季のピーク使用を抑制。
- ペーパーレス化に取り組むことで、印刷コストの削減と紙資源の保全につながる。
また、社内環境を整えることは、社員の脱炭素への意識向上にもつながるでしょう。
業務プロセスの見直し
働き方の見直しとITの活用により業務効率を上げることは、脱炭素だけではなく生産性の向上にも繋がる一石二鳥の取り組みです。
- クラウドツールや電子決裁の導入により、業務の効率化と紙の削減を両立。
- リモートワークの推進で、出社による通勤移動を減らし交通起因のCO₂排出も抑制。
国土交通省が発表した2022年度版の首都圏白書によると、首都圏の自動車通勤者がテレワークを行うと削減できるCO2の排出量は、推計で1日あたり最大約2,337トン、削減率は9.7%という計算ができます。移動時間の削減により業務効率も上がることが見込まれるでしょう。
移動手段の見直し
「移動」は多くの企業にとって避けられない活動です。環境省のデータによると、法人車両・物流事業における温室効果ガスの排出量は全体の17%であり、また効果的な改善策が多く存在する分野なので、見直しによる効果は大きく見込めるでしょう。
- テレマティクスの導入により、車両管理の効率化による移動距離の改善を実現。
- EV(電気自動車)やハイブリッド車への切り替えによる大幅なCO2削減。
車両管理は、脱炭素化施策のなかでも効果が顕著に見える分野です。テレマティクスサービスを導入すれば、燃料使用量、走行距離、稼働時間などのデータを簡単に取得できるため、CO₂排出量の分析と管理がスムーズに行えます。
テレマティクスサービスについて、詳しくはこちらをご覧ください。
車両管理の課題を解決! テレマティクスの導入効果をご紹介
テレマティクス技術がもたらすSDGs、GXについて
これらの改善策にはツールや車両の導入が必要にはなりますが、その分効果が可視化され、大きく削減が期待できる分野となっています。
どのような効果が見込めるのか、詳しく解説します。
4. 「移動」から脱炭素を始めるべき理由

脱炭素には、現状の温室効果ガス排出量と削減量の見える化が必要です。企業活動において切り離せない「車両の移動」において、テレマティクスサービスはその助けとなるでしょう。
車両管理を適切に行うことで、直接的な排出(Scope1)や間接的な排出(Scope3)の削減が可能です。また、配送業務や出張といった移動に伴う排出を「見える化」し、効率化を図ることができます。さらに、電気自動車(EV)の導入は、企業全体の排出量を大幅に削減する手段として注目されています。
Scope1だけでなくScope3にもつながる
企業単体の排出をより正確に把握するために、企業や組織が排出する温室効果ガスを“どこから排出されたものか”で分類する国際的な基準「Scope1・2・3」を意識する必要があります。

車両使用による温室効果ガス排出は企業の直接排出であるScope1に分類されますが、その影響はこれに留まりません。出張や委託配送、従業員の通勤などは、企業のサプライチェーン全体にわたる間接排出であるScope3にも深く関係しています。
特に、車両管理を通じて、このScope1及びScope3にアプローチできることは、企業にとって「社内外を含む排出」を管理する数少ない分野のひとつです。適切な車両管理は、企業がサプライチェーン全体の環境負荷を軽減し、持続可能なビジネス運営を実現するための重要なステップとなるでしょう。
委託配送や出張も“見える化”できる
間接排出であるScope3には様々なカテゴリがあります。

Scope3に分類されるカテゴリ4(輸送)、6(出張)、7(通勤)は、把握しにくい排出源ですが、適切なポリシーの整備とデータ連携を通じて削減が可能です。具体的には、テレマティクス搭載の車両管理システムを活用することで、これらの活動における温室効果ガス排出を“見える化”し、そのデータを記録・報告する体制を整える仕組みです。
参考:Scope3排出量とは - グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省
テレマティクス搭載の車両管理システムの利用により、企業は自身の環境負荷を正確に把握し、効果的な削減策を実施するための基盤を形成できるでしょう。見える化されたデータは、持続可能な事業運営に向けた戦略立案にも活用できます。
EV導入はScope全体の削減につながる
電気自動車(EV)の導入は、企業の温室効果ガス排出削減において強力な手段となります。まず、EVの利用は、燃料に依存せずにScope1の排出を大幅に削減することが可能です。環境省の「自動車による排出量のバウンダリに係る論点について」によると、2020年のガソリン車の走行時の温室効果ガス排出量が39.3tCO2eに対し、電気自動車は0.0tCO2eとなっています。
走行時だけでなく、Scope3にあたる燃料精製時や製造廃棄時も含めた「ライフサイクルアセスメント(LCA)」においても、ガソリン車のGHG排出量が1台当たり60.3tCO2eに対し、電気自動車は半分以下の29.8tCO2eです。このデータから、EVはガソリン車に比べ脱炭素社会の実現に大きく貢献できることがわかります。
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5. まとめ
脱炭素とカーボンニュートラルの違いや、国際的な取り組みとその背景、具体的な施策に至るまでを解説しました。特に車両管理やEVの導入は、脱炭素社会の実現に対して大きく影響を及ぼす手段と言えるでしょう。企業はこれらの取り組みを通じて、持続可能な成長を目指すことが求められています。
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