2024.8.9

【徹底解説】EV導入に欠かせないエネルギーマネジメントとは

カテゴリー:コラム
テーマ:EV/環境・脱炭素/車両管理高度化/コスト最適化

SDGs達成やESG経営のための取り組みとして、CO2排出量削減が求められています。その対策として注目されているのが、EV(電気自動車)の導入です。しかし、EVを効率的に運用するためには、電気の消費量を最適化するエネルギーマネジメントが不可欠です。

本記事では、エネルギーマネジメントの基本概念から、EV導入時の課題、そして具体的な管理方法まで、幅広く解説します。さらに、先進的な企業の事例も紹介し、エネルギーマネジメントの未来と可能性についても探ります。

そもそもEVって何? という方はこちらの記事から読んでみてください。
EV(電気自動車)とは?特徴や種類についてゼロから解説!

1. エネルギーマネジメントとは?

エネルギーマネジメントとは、企業や個人、地域のエネルギー使用状況を可視化し、効率的に管理することです。エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入・活用し、事務所やビル、工場などさまざまな場所において、照明や空調、設備機器の稼働を最適に制御することでエネルギー運用を効率化します。

エネルギーマネジメントとEMSの関係、EMSの種類、そしてピークカットやピークシフトなどの重要な概念について詳しく解説します。

エネルギーマネジメントとEMS

エネルギーマネジメントは、効率的なエネルギー利用を可視化し、制御するための概念です。具体的には、施設や工場、ビルなどのエネルギー使用データを収集・分析し、最適化することで無駄を省きます。

エネルギーマネジメントは省エネ活動全体を指す広義の概念であり、EMSはその一部を担うツールです。エネルギーマネジメントの取り組みは、EMSを活用した現状の可視化、分析、改善策立案、実行というサイクルで進められます。このサイクルを継続的に回すことで、より効果的なエネルギー管理が可能となり、企業の競争力向上にも貢献します。

EMSの種類

EMSは管理対象によって異なる呼称を持ち、メーカーや商社から多くの商品が展開されています。基本的にはエネルギーの収支管理という共通点がありますが、用途に応じて特化した機能を備えています。

主な種類として、家庭用のHEMS(Home Energy Management System)、建物用のBEMS(Building Energy Management System)、工場用のFEMS(Factory Energy Management System)があります。BEMSはオフィスビルや商業施設向けで、ビル全体のエネルギー消費を可視化し最適化します。また、FEMSは工場向けで、製造ラインを含む各設備の電力使用量を監視・制御し、コスト削減とCO2排出抑制を実現します。特に、FEMSはエネルギーの使用の合理化および非化石エネルギーへの転換等に関する法律 (省エネ法)対応やISO50001認証取得にも有効です。

ピークカットとピークシフト

エネルギーマネジメントでは、エネルギーとコストの効率化を図ります。この効率化を実現するための方法として、「ピークカット」と「ピークシフト」の2つがあります。

ピークカットは、電力を最も多く使う時間帯の使用量を削減する方法です。例えば太陽光発電をピーク時間帯に利用することで、購入する電力量を削減することが可能です。

一方でピークシフトは、使用電力が多い時間帯を避けて電力を使用することで、全体の使用電力を平準化する方法です。例えば終業後の時間帯に蓄電池へ充電を行い、電力が必要な日中に蓄えた電力を利用することができます。

EVを複数台導入する企業にとって、電力使用量のピーク調整は重要な課題です。エネルギーとコストの効率化を図る必要があるため、ピークカットやピークシフトは押さえておくべき重要な概念となります。

2. EV導入にはエネルギーマネジメントが欠かせない

EVを効率的に運用するためには、エネルギーマネジメントが不可欠です。ここでは、企業のEV導入が進む背景や、導入時の課題、さらにBCP(事業継続計画)の観点からエネルギーマネジメントの重要性について解説します。

企業はEV導入が求められている

企業活動におけるCO2排出量の削減は、大きな課題となっています。特に注目すべきは、企業が保有する商用車・社用車からのCO2排出量です。運輸部門全体のCO2排出量のうち、約6分の1が企業の車両によるものと言われています。

CO2排出量削減を推進するための法整備も進められています。省エネ法では、民間事業者に対して事業規模に応じてCO2削減の取り組みを義務付けており、対象となる事業者は努力義務や報告義務を負います。さらに、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)では、一定規模以上の企業に対し、CO2排出量の算定と電子システムを通じた報告が求められています。

また近年では、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営への注目も高まっています。特に環境面での取り組みは、企業価値を左右する重要な要素として認識されるようになりました。投資家や消費者は、企業の環境への取り組みを重視し、それが企業評価の指標として機能しています。

上記の背景から、企業は自社の環境への取り組みを積極的にアピールする必要があります。その一環として、社用車のEV化は非常に効果的な施策と言えるでしょう。EVの導入は、脱炭素社会の実現に向けた具体的な一歩であり、企業の環境意識の高さや先進性を示す象徴的な取り組みとなります。

EV導入時の課題「電力使用量のピーク調整」

EVを複数台導入する際、企業が直面する課題のひとつが「電力使用量のピーク調整」です。特に問題となるのは、空調需要が高まる夏と冬の就業時間帯に、EVの充電が集中することです。この時間帯は既存の電力需要も高いため、EVの充電が重なると契約電力を超過し、予想外のコスト増加につながる可能性があります。

多くの企業や自治体では、業務用車両を主に日中に使用するため、充電は夕方以降に集中しがちです。しかし、保有している全てのEVを同時に充電すると、電力供給や送電系統に負荷がかかり、容量不足に陥る恐れがあります。そのため、適切な電力管理戦略の採用が、EV導入の成功には不可欠と言えるでしょう。

3. エネルギーマネジメントの方法

エネルギーマネジメントは、企業の持続可能性と効率性を高める重要な取り組みです。適切な管理システムの導入や再生可能エネルギーの活用、蓄電技術の利用など、さまざまな方法があります。これらを組み合わせることで、コスト削減と環境負荷低減を同時に実現し、企業価値の向上につながります。本章では、効果的なエネルギーマネジメントの具体的な方法を紹介します。

EMSの導入

エネルギーマネジメントに取り組むためには、現状のエネルギー使用量を把握する必要があります。そのため、データを可視化することのできるEMSの導入は不可欠でしょう。

オフィスであればBEMS、工場であればFEMSの導入になります。照明や空調、工場内の設備など用途別の使用電力量を可視化することで、ピークの時間帯を把握し適切な節電に取り組むことができます。さらに空調などの自動制御も行えば、エネルギー消費効率の最大化と快適な職場環境を両立することも可能です。

また、太陽光発電やEVなどの活用効果も可視化でき、次の施策や改善に活かすことができます。

EMSの導入を検討する際は、複数の法人向けメーカーを比較してみることをおすすめします。

太陽光発電システムとパワコン

太陽光発電システムは、企業の省エネ対策として注目されています。このシステムを導入することで、購入する電力量を抑え、自社で発電した電力を活用できます。さらに、再生可能エネルギーの使用比率を高められるメリットもあります。

システムの中核を担うのがパワーコンディショナー(パワコン)です。これは太陽電池パネルで生成された直流電力を、家庭や事業所で使用可能な交流電力に変換する装置です。最新のパワコンには、日照条件に応じて発電量を最大化する「最大電力点追従制御」機能が搭載されています。

パワコンの選択は重要で、変換効率や機能性を考慮する必要があります。また、導入時には補助金制度を活用することで、初期費用を抑えられる可能性もあります。

蓄電池の活用

蓄電池の活用は、企業の省エネ戦略において重要な役割を果たしています。主に2つの機能があり、1つ目は電力需要のピーク時に放電することで電気代を削減するデマンド抑制効果です。この効果により、基本料金と電力量料金の両方を削減できます。

2つ目は、停電や緊急時の非常用電源としての役割です。非常時にも電源が使用できるため、事業継続性が向上し、リスク管理にも貢献します。

蓄電池は、幅広いラインアップがあります。企業は自社の規模や電力使用パターンに合わせて最適な容量を選択することが重要です。

エネルギーマネジメント機能付きEV充電器の設置

エネルギーマネジメント機能付きEV充電器の設置は、企業のエネルギー管理とEVの普及を両立させる重要な取り組みです。通常、EV充電は契約電力の増加や電気料金の上昇につながる可能性がありますが、エネルギーマネジメント機能を活用することでこの問題を解決できます。

この充電器は、電力使用量が少ない時間帯を自動的に選んでEVを充電し、デマンドの増加を最小限に抑えます。さらに、必要に応じてEVから電力を放電することで、ピーク時の電力消費を抑制することも可能です。

また、契約電力を超えないよう充電を自動制御したり、電気料金の安い時間帯に充電をシフトしたりすることで、担当者の手間をかけずに電気料金を削減できます。

EVの充電について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
これを読めばわかる! EV(電気自動車)の充電のあれこれ

4. エネルギーマネジメントに取り組みEVを導入した事例

エネルギーマネジメントとEV導入を組み合わせた取り組みとして、東京ガスとYanekaraの事例を紹介します。これらの取り組みは省エネと環境配慮を両立させながら、事業効率の向上にも貢献しています。

東京ガス

東京ガスは、EV充電設備の設計から運用までをワンストップで提供するサービス「Charge Planner」を展開し、エネルギーマネジメントの運用体制構築に取り組んでいます。EMSによる充電タイミングを自動制御し、充電コストの低減に貢献できることが特徴です。

東京ガスはNCSからEVを導入し、「Charge Planner」の実証試験を行いました。現在は正式に事業化し、EVに関する総合的なソリューションを提供する「モビリティパートナー」としてNCSと連携を深めています。

東京ガスの取り組みについて、詳しくはこちらをご覧ください。
EV導入支援サービス「Charge Planner」の導入とNCSとの連携

Yanekara

株式会社Yanekaraと日本郵便株式会社は、EVの充電・管理に関する革新的な実証実験を実施しました。Yanekaraが開発した「YaneCube」充電制御装置を使用し、16台の集配用EV車両の充電を効率的に管理した実験です。

電力使用のピーク抑制を目的として実施された本実験では、電力使用のピークを38kW抑制することに成功し、年間電気代の削減見込みは約45万円に達しました。さらに、電力使用率の低い夜間帯での充電を実現し、既存設備への簡易な後付けの可能性にもつながりました。

Yanekaraの取り組みについて、詳しくはこちらをご覧ください。
Yanekara、日本郵便と共同で集配用EV車両16台の効率的な充電によるエネルギーマネジメントの実証実験に成功

5. エネルギーマネジメントシステムの課題と展望

EMSは、省エネと環境保護に大きな可能性を秘めています。しかし、その実現には運用体制の構築や技術的課題の克服が必要です。一方で、この技術はスマートモビリティ社会の実現に向けた重要な要素となり、持続可能な未来への足がかりになると言えるでしょう。

エネマネの運用体制を構築する必要がある

EMSの効果的な運用には、専門的な知識とスキルを持つ人材が不可欠です。EMSは単なるシステム導入にとどまらず、データの分析や改善策の実施など、継続的な管理が必要となります。

運用担当者には、省エネや電気に関する幅広い知識はもちろん、法規制の理解も求められます。多くの企業では、こうした専門性を持つ人材の確保が課題となっています。解決策として、EMSを提供する事業者からの運用サポートを採用する方法があります。

NCSのEV導入支援サービスでは、システム導入からその後の運用体制構築までをサポートしています。

スマートモビリティ社会構築に期待

スマートモビリティ社会の実現に向けて、EMSの構築が重要な役割を果たしています。特に、商用EVの普及促進のため、政府主導での取り組みが進んでいます。具体的には、車両の運行管理とEMSを一体化するシステムの構築のため、旅客・運送業の民間事業者を巻き込んだ検討・システムの構築が進められています。

また、次世代型の太陽電池や蓄電池の開発を促進する「グリーンイノベーション基金事業」も整備されています。これらの取り組みによってエネルギーマネジメントの進歩が加速することが期待できます。

参照:NEDO「スマートモビリティ社会の構築プロジェクト 2023年度報告資料」

6. まとめ

エネルギーマネジメントによってエネルギーの使用状況や効率を可視化することはとても重要です。特にEMSは、企業のEV導入と効率的な運用に不可欠な要素です。EMSの導入により、電力使用の最適化やコスト削減、CO2排出量の抑制につながります。EVとEMSの組み合わせは、企業の環境対策と競争力向上の両立を可能にする戦略の一つとなるでしょう。

さらに、自然災害などの緊急事態において迅速に事業を復旧させるための計画(BCP)においても、EVを蓄電池として活用することで緊急時のエネルギーマネジメントが可能になります。EVを導入する際にはこういった副次的な導入効果も考慮すると良いでしょう。

おすすめ記事