2023.11.29

自動車業界におけるOver The Air(OTA)技術の活用

カテゴリー:コラム
テーマ:安全運転・事故削減/車両管理高度化/コスト最適化/業務効率化

最近はネットワークにつながっている「コネクテッドカー」と呼ばれる車が増えてきました。直訳すると「つながる車」で、使われている技術は「Over The Air(OTA)」です。「Over The Air(OTA)」とは、どのような技術でどのように活用されているのか、また車に使うとどのような効果をもたらすのかを解説します。

Over The Air(OTA)とはなにか

OTAとは、無線ネットワークを利用した通信のことです。近年ではインターネットの幅広い普及や5G通信といった、高速で安定した通信が手軽に利用できるようになったため、OTAを活用した技術の導入が増えてきています。

身近なOTA活用の例

(1) スマートフォン
スマートフォンは、電話など連絡手段だけでなく情報の入手やエンターテイメントなどにも活躍しています。お手持ちのスマートフォンに入っているアプリやOS(基本ソフト)のバージョンアップなど、「更新」の通知が届いて実践したこともあるかと思いますが、これこそがOTAを活用した事例です。新機能の追加や不具合の解消が、ネットワーク上での無線通信によって行われています。

(2) パソコン
仕事をする上では欠かせないパソコンにもOTAの技術が使われています。基本的にはスマートフォンと同じイメージで、OSの定期的な更新にOTAを活用しているのです。パソコンのOSの更新は、定期的に配信されています。常にOSを最新の状態に保つことがインターネットセキュリティです。OTAによって、OS内のセキュリティの向上や脆弱性の改善といった作業を、自宅や外出先、オフィスにいながら個人単位で行えます。OSを提供している企業が、OTAを利用してサポートを行っています。

(3) 家電製品
意外かもしれませんが、ご自宅にある家電製品にもOTAを活用した通信を行っている機種があります。最近はIoT(Internet of Things)家電と呼ばれる、インターネットに接続して連携できる機能を搭載したモデルも各メーカーから販売されています。これらの家電は、専用アプリをスマートフォンにインストールしておくと、外出先から家電製品を動かしたり状況を把握したりができます。例えば、「外出先からロボット掃除機に掃除をするように指示をする」「エアコンのスイッチを入れて帰宅前に適温にしておく」などです。ここにもOTAが使われています。

OTAがなかったらどうなるのか

(1) わざわざ店舗などに出向く必要がある
もしOTAで更新ができなかったら、商品を購入した店舗や最寄りのサービス拠点までデバイスなどを持ち込んで更新してもらう必要があります。同じ商品を持っている人が多かったり、深刻な不具合を抱えた更新だったりした場合は人が殺到し、時間と労力がかかるでしょう。
しかも、更新が毎週や毎月といった定期的なものであった場合、常に更新のための時間を確保しなければなりません。非常に非効率な生活を送ることになってしまうでしょう。

(2) 不具合が発生したままになる
OTAがないと、商品の不具合が発生したままになる恐れがあります。工業製品は出荷時に検査をするので、その時点では完全なものです。しかし、市場に出回り多くの人に使われているうちに、隠れた不具合が見つかる場合があります。機械的な不具合は、商品を工場に送って修理してもらうのが従来通りの方法です。商品に搭載されているコンピュータのソフトウェアを書き換えによって不具合が解消するのであれば、OTAでの更新(バージョンアップ)だけですみます。
しかしOTAがなく、近くに持ち込める修理拠点などもないと、不具合を抱えたまま商品を使い続けなくてはいけません。発生した不具合とともに生活をする不便を強いられます。

(3) 弱いセキュリティで使うことになる
スマートフォンやパソコンに搭載されているOSは、残念ながら完全ではありません。世界各国にいるハッカーなどによって、OSに隠された脆弱性を見つけ出され、知らない間に攻撃されている事態が発生します。もしOTA技術がなかった場合、常に端末内部にある情報を盗み出されたり改ざんされたりといった恐怖と隣り合わせの状況になるでしょう。特に、ビジネスにおいては重要な顧客情報や会社の機密情報をパソコン上で取り扱うため、情報漏洩のリスクを抱えます。パソコンがないとほとんどの仕事ができない時代なので、かなりの不便を強いられるでしょう。

自動車におけるOTAの活用例

スマートフォンやパソコン、家電製品といった日常生活に欠かせないモノに関するOTA技術について紹介してきました。ここからは自動車におけるOTA技術に関する話を紹介します。意外と自動車にもOTAが活用されてきているのです。

カーナビの更新

今や大半の車に搭載されているカーナビですが、地図データの更新などにもOTAが導入されてきています。

カーナビの歴史を振り返ってみましょう。1990年代から主に高級車に搭載されていたカーナビは、CD-ROMを読み込んで、地図データを画面上に表示したり案内をしたりといったものでした。2000年代から多くの車に採用されるようになります。地図データも見た目が良くなったり周辺施設が表示できたりとデータ量が膨大になってきたため、DVD-ROMが使われるようになりました。
これらに共通するのは「現物のROMが必要」という点です。常に道路情報が更新される状況において、ROMが作られた時点よりも若干古い地図データを搭載していました。地図データを更新するには、新しいROMを購入し本体にあるROMと入れ替える必要があったのです。

2010年代になると、よりコンパクトで容量の大きいフラッシュメモリタイプのカーナビに変わりました。しかし、地図データの更新は「フラッシュメモリを購入して差し替える」というアナログなもので、OTAとは程遠いものでした。

近年では、地図データが入ったフラッシュメモリを搭載しているカーナビが販売されています。以前のフラッシュメモリと大きく異なる点は「無線LAN接続」や「自宅にあるパソコン経由」で地図データの更新ができるようになった点です。車と自宅のWi-Fiネットワークに接続したり、自宅にあるパソコンなどにカーナビから取り出したフラッシュメモリを挿入したりすれば、専用ソフトを介して地図データをダウンロードできます。カーディーラーなど、販売店にわざわざ行かなくてもカーナビの更新が可能です。さらに操作性の改善など、軽微な修正もOTA技術を介して行われるようになりました。カーナビ更新のために店舗まで行かずにすむのは、大きな進歩といえます。

車の状態把握や操作

車の状態把握や操作にもOTAが用いられています。ネットワークとつながるOTAを活用しているのは、近年発売されている「コネクテッドカー」と呼ばれる車です。ネットワークにつながっているため、遠隔でも車に搭載されているコンピュータの状態が確認できます。従来は、車に直接診断用のコンピュータを繋がないと確認できませんでした。

専用のアプリケーションをスマートフォンなどにインストールし車とリンクさせると、車に乗る前に車内の温度を確認してエアコンを入れることも可能です。乗り込む際には快適な温度になっているなど、OTAを使ったカーライフが豊かになっています。

さらに、車にコンピュータが搭載されることで、異常の発生を運転者は素早く確認できるようになりました。異常発生時にはメーター上に警告灯が点灯し、運転者の視覚(目)に訴えるようになっています。
かつて、車の調子を把握するために必要だったのは「耳」と「手」から得られる感覚でした。いつもとは違う車の状態を、音で聞いたり手で感じたりして確認していたのです。

車に搭載されているコンピュータにはさまざまな情報が集められ、車を制御しています。初期段階では、燃料の噴射量やアイドリングの制御といった車のエンジンに関係する部分の制御をコンピュータが行い、運転しやすくなるようにしていました。技術の進歩により、車のライトやドア、キーレスエントリーシステムなど、エンジン以外にも用いられています。これらのコンピュータはECU(Electronic Control Unit)と呼ばれています。

車自体の機能更新

車そのものの機能更新にも、OTA技術が使われるようになっています。車に搭載されているコンピュータのプログラムの更新は、専用のコンピュータを車に接続して行う方法がメインです。しかし、車に接続モジュールが搭載されていれば、OTAで不具合の解消や機能の更新ができます。

つまり、OTA技術により、車に発生する故障の一部は自宅にいながら解消できるのです。

NCSに見るOTA技術の活用

NCSでは、運行中の映像・音声や走行データを車載器で捉え、Web上で運転者・管理者が把握できるテレマティクスサービス「NCSドライブドクター」、AIとクラウド技術を採用し、もしもをふせぐ車両管理の進化系テレマティクスサービス「Offseg(オフセグ)」などお客さまの多様なニーズにお応えすべく複数のテレマティクスサービスを提供しています。これらのサービスはOTA技術の活用により、お客さまが常に最新のソフトウェアが搭載された状態でサービスを利用できるよう、環境を整えています。

活用例:車載器ソフトウェアのバージョンアップ

各車両に取付けする車載器にもソフトウェアが組み込まれています。スマートフォンやパソコンと同様にOTAで更新を行えば、ソフトウェアのバージョンアップに伴う負担を軽減できるため、業務の効率化につながります。複数台の車両を管理する企業にとって、機能の更新を行うだけでも一苦労です。特に車両が別の場所にあると管理がしにくいなどデメリットが多いのですが、OTAで更新を行えば負担を軽減できます。

運行・映像データの取得およびクラウド保管

OTA技術が搭載された車載器を設置することで、各車両から速度や位置情報などの運行データおよび急減速、急加速といった危険運転時の映像データを取得しクラウド上に保管することが可能となります。
運転日誌の自動作成・タイムリーな運転指導および車両稼働状況の可視化など、業務効率化や事故削減に効果を発揮します。

まとめ

今後、車に搭載されている機能は、より高度なものへと進化していくでしょう。
例えば、運転支援システムの自動運転へのOTAの活用があります。自動運転は、最新の地図情報をもとに適正な速度やハンドル角度を車のコンピュータが判断し運転者をアシストします。そのため、地図情報の更新が欠かせません。地図情報が古いままだと事故などにつながる恐れがあるため、リアルタイム更新をする必要がありOTAを活用することになります。
自動運転技術を搭載した車は国内でも一握りです。しかし、搭載車種が増えれば、搭載される技術も日々進歩していくことでしょう。
さらに、進歩に伴いスマートフォン自体が車のキーになるなどが予想されます。車のユーザーが使うアプリケーションに搭載されている「遠隔エアコン操作」の機能以外にも、さまざまな面で応用されていくでしょう。

自動車業界において、OTA技術の活用が進んでいます。OTA技術は、これからの自動車業界を大きく変えていく技術であるといえるでしょう。

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