2022.5.30

自動車事故ゼロも夢じゃない「テレマティクスサービス」とは?

カテゴリー:コラム
テーマ:安全運転・事故削減/コスト最適化

 社用車を利用する企業の多くは、安全運転の徹底やエコドライブの励行、車両管理業務の効率化といった活動を行っています。近年、そういった活動に役立つ技術として「テレマティクス」が注目されています。本記事では、テレマティクスの基本やメリットなどを紹介します。

テレマティクスサービスとは? その仕組みや歴史を解説

 「テレマティクス」とは、「テレコミュニケーション(遠隔通信)」と「インフォマティクス(情報科学)」を組み合わせてつくられた造語です。テレマティクスコントロールユニットと呼ばれる制御装置および通信モジュールと外部のシステムを接続することにより、実現・提供されるサービス全般をテレマティクスサービスと呼びます。具体的には、SIM経由でインターネットに接続できる機器を社用車に搭載し、GPSやカーナビと連動させ、社用車の位置や速度の情報を取得する仕組みとなっています。

 テレマティクスの歴史は古く、1983年に本田技研工業株式会社がF1参戦時に投入した「テレメトリーシステム」が実用化の原点とされています。一般車向けのテレマティクスが誕生したのは1990年代半ば以降。政府主導で進められた「ATIS(アティス)」と「VICS(ヴィックス)」がそれに当たります。ただし、どちらも道路交通情報を提供することはできたものの、あくまでも一方向のみの情報提供型で、双方向性はありませんでした。

 1997年頃になると、民間主導の開発も本格化しました。現在は単に道路交通情報を受信するだけではなく、走行中の社用車の位置情報や走行記録といった各種情報を外部に送信する双方向通信が可能となっています。結果、特に社用車を利用する運転者の安全運転をサポートする技術として重宝されるようになったほか、収集データを活用し、業務効率化にもつなげる流れが加速しています。

テレマティクスで社用車の事故防止とコスト削減に期待

 テレマティクスを導入することで、どのような業務効率化が期待できるのでしょうか。ここからは、テレマティクスを導入することで具体的に収集できるデータとその活用法を紹介します。

 多くのテレマティクスでは、車両速度のほか、ブレーキやウィンカー、エンジン停止のタイミングといった運転情報を収集できます。車両速度やブレーキのタイミングを取得することで、急加速や急減速、長時間のアイドリング状態などの危険運転を察知。音声ガイダンスで運転者に知らせる機能や、安全運転管理者にメールなどで通知する機能を搭載したシステムもあります。また、地図データと比較して法定速度をオーバーしている場合には警告を発するといった機能を用意しているものもあります。

 テレマティクスで車両の運行状況を把握することにより、安全運転の指導をよりしやすくなります。実際にテレマティクスを導入した企業では、事故件数が導入前と比べて30%減少した事例もあります。さらにその結果として保険料の低減も実現しています。事故件数の削減により保険金の支払いが減ったことで、保険料の割引につながったケースもあります。

 車外はもちろん、車内カメラの映像を取得するテレマティクスもあります。喫煙、わき見、居眠り、スマートフォン利用といった「ながら運転」や癖を確認でき、運転者に指導を行うことで、結果としてコンプライアンスの遵守を促すことにもつながります。

 その他、位置情報を取得するテレマティクスを使うことで、予定のルートからはずれている車両を把握できるほか、走行履歴を確認し、地図データと連動した最適な運行ルートの作成にも活かせます。テレマティクスを導入した企業の中には、燃費を年間13%改善できた事例もあり、コスト削減にも大きく貢献する可能性があります。

テレマティクスサービスとドライブレコーダーの違いとは

 運転中の映像や音声を録画、保存できるものといえば、ドライブレコーダーも挙げられます。ただし一般的なドライブレコーダーは、情報をリアルタイムに共有することを目的とはしておらず、事故が発生した際に原因を把握したり、証拠として提出するために利用されることが多くなっています。

 テレマティクスサービスは、リアルタイムで車両の運行状況を取得できるのが大きな特徴です。危険運転情報を取得して運転者や安全運転管理者に警告したり、蓄積された運行状況データから運転者一人ひとりの運転の癖やヒヤリハットの多い場所を割り出すことで、適切な安全運転指導を実施できます。事故が発生する前に、運転者の安全に対する意識向上をめざせる点が大きな違いといえます。

テレマティクスを導入すると、安全運転管理者の業務はどう変わる?

 社用車を管理する安全運転管理者側の業務効率化への活用も期待されています。例えば、テレマティクスには、車載器から取得した運行情報を基に、運転日報や業務記録簿を自動で作成する機能が搭載されているものがあります。安全運転管理者は、道路交通法施行規則に基づき運転者に運転日報を記録させなければなりません。しかし、運転日報の作成は、時間を要します。テレマティクスサービスを導入すれば、その業務負担の軽減が期待できるのです。

 さらに、車両の運行情報とともに運転者の乗車時刻、降車時刻、休憩時間などの実績をデータとして蓄積できるテレマティクスであれば、運転者や車両の稼働状況を集計し、適切な人員配置や車両台数の検討に役立てられます。

 その他、事故情報がリアルタイムで本部や安全運転管理者に通達されるテレマティクスもあり、事故現場の特定はもちろん、必要に応じて救急車や保険会社への連絡も行えるため、万が一の事故時もスムーズな対応が期待できます。

メリットとデメリットを把握したうえで導入の検討を

 事故件数の削減やコスト削減、業務効率化に大きなメリットが期待できるテレマティクスサービス。ただし、運転者側からすると、位置情報や車内での様子を常に「監視されている」というネガティブな印象があり、反発が起こる可能性があります。運転者と安全運転管理者間の信頼関係が崩れてしまっては、安全運転指導などの効果も薄れてしまいます。導入に際しては、時間をかけてでも、運転者全員の理解を得るとよいでしょう。

 また、テレマティクスサービスを導入するためには、初期費用や月額費用といったコストが発生し、利用する社用車が多ければ多いほどコストがかさむことになります。一方で、業務効率化や生産性の向上、保険料の削減や燃費向上などにより、導入コストを上回るメリットを享受できる可能性も十分に考えられます。導入メリットとコストのバランスを見極めることが重要です。

 テレマティクスサービスを導入することによる課題と、それにより得られるメリットをしっかりと把握したうえで、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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